2005年03月03日

最悪の逆境において実現できる価値とは?フランクルに学ぶ


先日より、Win-Win(ともに利益を得る)を実現するための考え方やコミュ
ニケーションの方法をお話しています。

昨日の記事では、有名な「囚人のジレンマ」を題材に、「勝つことにこだ
わると負けてしまう!相手を信頼し協力することで得られるものは何か?」
というお話をしましたね。

今日は、その流れに関連した話をしたいと思います。
主体性を高めるのにも、とてもお役に立つ話です。


以前、講演で次のようなお話を聴いたことがあります。実話です。
(詳細までは正確に覚えていませんが、私の記憶を頼りに書きます)

ある夫婦の話です。

妻は医者から、自分の夫が末期の癌であることを知らされました。
妻は大変ショックを受けました。
そして、そのことを夫に告げるべきかどうか悩みました。


「そのことを夫に告げたら、夫はどのくらいショックを受けるだろうか?」
「夫は悲しみと恐れに耐え切れないのではないか?」

妻は悩みぬいた結果、決心しました。
「やはり伝えよう。私が夫の立場だったら、黙ってないで告げてほしい」

夫の気持ちを考えると胸が張り裂けるような想いでしたが、妻は意を決し
て夫に告げたのです。
夫がショックを受けとめきれずにパニックすることを覚悟して、「あなた
は末期癌なの」と告げました。

すると、パニックすると思われた夫は、優しい目で妻を見ながら、落ち着
いて、こう言ったのです。

「おまえ、そのことを俺に告げるのに、どんなにか辛かっただろう。苦し
んだだろう。辛い思いをさせてしまってすまない。そして、勇気を出して
言ってくれてありがとう。」
そう言って、夫は涙を流したそうです。

私はこの話を聴いた時、感動で涙があふれました。
「人間って、なんて素晴らしいんだ!自分が余命少ないという状況になっ
てすら、相手のことを思いやり、愛を持って接することができるんだ。」


ここで、多くの人を「生きることの意味」に目覚めさせた心理学者ヴィク
トル・E・フランクルの話をしましょう。
永遠のロングセラーと言われる彼の著書「夜と霧」を読まれた方も多いと
思います。

この「夜と霧」は、2000年に、ある大手新聞がおこなった「21世紀に残し
たい世界の名著」というアンケートで、ベスト3に入りました。
また、アメリカ議会図書館の調査(1991)では、「私の人生に最も影響を
与えた本」としてもベスト7に入っています。

フランクルは、ナチスの強制収容所に送還され、人間の尊厳を奪われるよ
うな、筆舌に尽くしがたい体験をしました。
そこで彼は、ナチスの看守たちが決して奪うことのできない自由を発見し
たのです。

ナチスの看守たちは、フランクルのおかれた環境をすべてコントロールす
ることができたし、彼の身体を思うがままにすることもできました。

しかしフランクルには、「この状況をどのように受け止めるか」を選択す
る自由があったのです。
この状況を「絶望的」と受けとめることもできれば、「将来、この体験を本
にしよう」と考えることもできたのです。

この「受けとめ方を選択する自由」は、決して看守たちも奪うことができ
ないものでした。

そして、フランクルが収容所で見たものは、「同じ状況に直面して、ある
人間はそれこそ豚のようになったのに対して、別の人間は反対に聖者のよ
うになった」という事実だったのです。
それぞれの人間が、どんな受けとめ方を選択するかによって、生き方に大
きな違いが出てくるわけです。

フランクルは、人生の意味を探るに当たって、次に紹介する「3つの価値」
を念頭において探してほしいと言っています。

1.創造価値
   仕事などの活動によって実現される価値のことです。
   例えば、お茶くみのように地味に思える仕事でも、その仕事を通じ
   て他の人のストレスの緩和に貢献している場合、大きな価値を実現
   しているわけです。

2.体験価値
   これは何かを体験することによって実現される価値です。
   自然と触れ合う体験、人を愛する体験、社会に貢献する体験など、
   体験から何かを受け取ることによって実現される価値のことです。

3.態度価値
   自分に与えられた状況や運命に対してどういう態度を取るか。それ
   によって実現される価値です。
   ナチスの収容所に送還された人のように、創造価値と体験価値の両
   方を奪われてしまった人でも、態度価値だけは奪われることはあり
   ません
   「この状況でどんな態度を取るか」は100%自分が選択しているわ
   けです。


今日の記事の最初に紹介した「自分が癌であることを告げられた夫」は、
なんて高い態度価値を実現しているのでしょう。


さて、昨日の記事で紹介した「囚人のジレンマ」のような状況においても、
この態度価値を考えることができます。

相手が裏切るかもしれないという状況の中で、相手を信頼してWin-Win的な
選択をするということは、とても高い態度価値を実現していると言えるの
ではないでしょうか。


この話は明日に続きます。


<おすすめ本>

今日の1冊目はもちろん「夜と霧」。
英語版だけでも900万部を超えるベストセラーになっていて、世界的な
ロングセラーでもあります。
人生の意味を見い出す名著です。

夜と霧 新版


次の本はフランクル心理学の入門書として最適です。
そして、とても深い気づきを与えてくれる本です。
小見出しをいくつか紹介します。
「いくら素晴らしい技術があっても人は癒せない。人間的な触れ合いと愛
の交流がなければ。」
「自分を一面だけで判断したらそのとおりになる。だが、人間は多面的な
存在なのだ。」
「真の勇気が試されるのは逆境のときではない。幸運なときどれだけ謙虚
でいられるかで試される。」

フランクルに学ぶ―生きる意味を発見する30章


3冊目もフランクル心理学の入門書として最適です。
トランスパーソナル心理学会の会長でもある諸富祥彦氏の著書です。

どんな時も、人生に“YES”と言う―フランクル心理学の絶対的人生肯定法



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知ることは 超えることである  『夜と霧』は直截の和訳ではない。原題の忠実な訳をいうなら、「強制収容所における一心理学者の体験」とでも訳すべきである。では、フランクル(Viktor Emil Frankl;1905-1997)のあまりに有名なこの書は、なぜ『夜と霧』と称されてきた
2. お知らせ  [ (V.E.フランクルと)僕の思想日記 ]   2005年03月15日 00:08
このサイトは、V.E.フランクル研究者・ロゴセラピストを目指す (あくまでも目指している段階です。現実はまだまだまだまだです) 26歳大学院生による自己完結型日記的ブログです。 日常にあった事や感じたことなどを題材にフランクルの思想を紹介したり 実はフランク

この記事へのコメント

1. Posted by alchemist   2005年03月04日 04:02
野口さん。 こんにちは。
また、素晴らしい話を聞かせていただきました。
感動しました。 
フランクル心理学ですね。 
是非、読んでみようと思います。

ありがとうございました。
2. Posted by 知っ得塾:中村   2005年03月04日 08:01
お世話になります中村です。
「この状況をどのように受け止めるか」を選択す
る自由がある。
非常に勉強になる事でした。
有難うございました。
では失礼します。
3. Posted by 大金   2005年03月04日 10:59
野口コーチ。こんにちわっ!

「この状況をどのように受け止めるか」

これに関しては、吉田松蔭の伝記に教えられることが多いですね。
コーチングはいつでも、どこでもできるんだ!って勇気付けられます。

コーチの世界で引用される有名な逸話が多いので、野口コーチなら、もちろんご存知とは思いましたが、蛇足まで・・・。
4. Posted by Supporter 藤井   2005年03月04日 12:45
野口様
「まず自分の内面,自分に起こっている現象の全てを受け入れる」ことが大事なんだと思います。
以前にもコメントさせていただきましたが・・・。
5. Posted by カズ   2005年03月04日 15:26
7つの習慣で興味をもって、以前、夜と霧(新訳)を読みました・・
生きることは何なのか?
それを幾度も考えさせられました・・いまだ答えはでていませんが・・
また、よい本を紹介してください。
6. Posted by 野口嘉則   2005年03月05日 08:35
alchemistさん、中村さん、大金さん、藤井さん、カズさん

書き込みありがとうございます。
藤井さんの「まず自分の内面,自分に起こっている現象の全てを受け入れることが大事」という言葉、胸に響きました。
「吉田松陰」や「7つの習慣」など、関連情報も提供していただき嬉しいです。

皆さんに感謝・感謝です!
7. Posted by rion   2005年03月14日 16:08
TBありがとうございます。フランクルの提唱する3つの価値、人生を前向きに考えてほしい彼の願いが込められているように思います。

きっと、人生を探ることの価値でもあるのでしょう。
8. Posted by 西木 裕司   2005年06月07日 11:12
究極の選択・・・人生に何度かありますよね

結婚?違います
9. Posted by フクキータ   2006年12月04日 02:16
この講演は、田中信生先生の講演ですね!私も聞いたときに涙しました。
野口さん、いつも素晴らしいお話をありがとう御座います!


10. Posted by takachan   2007年01月22日 12:56
「囚人のジレンマ」と今日の題材でWin!-Win的な関係的価値観において、「囚人のジレンマ」は、とても価値観的に苦しい題材です。まず泥棒すること自体に善悪の価値観が自分の中に捉え方がTPOに応じてあるということ。泥棒すると言う価値観の中で相手と何において共有的共感的価値が合致して行動におよんだのかがはっきりしないと、この判断は信頼という価値観の面だけ見ればよろしいが、泥棒ということに対しての贖罪に対してどうなのかという、倫理的道徳的価値観の付与が欠けているのでとてもいやな気分です。
11. Posted by みぱ   2007年04月25日 15:33
>「この状況をどのように受け止めるか」を選択す
る自由がある。

どんな状況においても言論や思想の表現の自由は遮られても、
思想にまで制限をすることはできませんね。

次に繋がる思想をして未来に繋がる行動を選択していきたいと
思います。

ただいま、会議の改革をすすめています。
とても不安なのですが、
社員のみんなを信じてよい方向へ変えていきます。
12. Posted by aoiumiaruku-v.v   2007年05月21日 13:42
「この状況をどのように受け止めるか」を選択する自由があった・・・
ナチス収容所の話では、説得力ありすぎです;
そして、「どんな時も人生に Yes”と言う」  のですね。

だんだん仲良くなってきた女のコに、
彼氏がいたことを、昨日、知りました。
「今までの態度は何だったんだ〜!」って思うのも、
「すべてはうまくいっている」と肯定するのも、
私が(自由に)選択していいのでした。

でも人間だから、
ちょっとのあいだはうちひしがれていてもいいですよね。^^;
わたしはOK!そしてあなたももちろんOKです!
少しづつ、幸せ成功人間になっていきます。ありがとうございます。
13. Posted by aoiumiaruku-v.v   2008年02月25日 01:30
まだ(夜と霧)は読んでいませんが、うれしいシンクロニシティでした。
つい先日聴いた第18回ポットキャストは、まさにこのお話だったのです。
私の人生は、
(忍耐して個性を際立たせる生き方)を期待していると思いました。

「私は今ここに生きている価値がある!」
今日も強くなれたかな。
ありがとうございます。
14. Posted by マーガレット   2008年04月15日 07:34
野口さん、おはようございます。
今日のお話も心の深い部分まできます。
前回のお話にありましたが、パラダイムとビリーフも影響しているのですね。
Win-Winって、こんなに奥が深いとは・・・。

『フランクルに学ぶ―生きる意味を発見する30章』の表紙の男性(フランクル?)を見て気づいたのですが、最近の私も同じようなポーズでパソコンの前にいます(人差し指は下唇の上においてますが)
心理学的に、深く考えるとこんなポーズをとるのかな...
野口さんは、今、パソコンの前でどんな感じなのでしょうか(^_^)

こちらに書かせていただくと心の整理ができて、
いろいろなものが見えてくるような気がします。
今日もありがとうございます☆
15. Posted by あきたん   2008年07月06日 22:42
同じ出来事に遭遇しても、受け止め方は千差万別・・・
つらいことが起きたからといって、打ちひしがれる必然性は、どこにもなく、ただ、自分が打ちひしがれるという選択をするかどうかですよね。

今、家庭内で起きている問題も、癒されるためにあえて表面化してきているのだと信じています。

このブログに出会い、たくさんの本を読み、私が受け止める準備ができてから起こっているように思います。

私と主人のそれぞれの両親が解決できず、引き継がれた痛みを・・・必ず私たちの代で終わらせる。子供たちには引き継がない。決意を新たにしている今日このごろです。
16. Posted by shige   2011年03月03日 06:31
逆境で、高い態度価値を発揮するためにも、日々の生活の小さなところから
態度価値を意識していきたいと思います。
でも、「真の勇気が試されるのは幸福なとき」
それも忘れないようにしたいと思います。

17. Posted by リリィ♪   2011年03月03日 11:35
ありがとうございます。
人生が私達に問いかけてくれている。
私達は生きているだけで愛されている。
お天道様が見守ってくださっている。
本当に有難いことです。
18. Posted by 蒼衣   2011年04月21日 12:14
5 ご紹介の本、ゆっくり読んでみます
19. Posted by 気功士:アーナンダ   2012年01月25日 17:21
『夜と霧』
読んだ時、
こんな風に思えるだろうか?
と考えたことがあります。

今は無理だ


結論でした。

態度価値、
日常の中でも試されるのですが、
嫌だ
嫌い
面倒くさい・・・

改めて心に刻んで生きたいと感じました。

いつもありがとうございます。
20. Posted by hide   2012年05月15日 08:47
こんにちは。

今回の記事では自分に与えられた状況や運命に対し、
例え最悪の状況であっても、まずはそれを受け入れて、
高い態度価値を取ることによって、自分の中の状況や
周囲までも変える事ができるという勇気をいただいた
気がします。

私の場合、まずはどういった状況になろうとも、一旦は
それを受け入れるところから始めないといけないなぁ〜
と気づきました。

ありがとうございました。


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